会話の話

 今日はラジオをよく聞いた。ラジオを聞くと、教室の端で、周囲の楽しげな会話を盗み聞きしていた学生時代を思い出す。人の会話を断片的に聞くのは今でも好きだ。

 

 『物語の作り方 ガルシア=マルケスのシナリオ教室』を読み耽る。実はずいぶん前に教授に借りた事があった。その際は全く読み切れなかった。本作は、ラテンアメリカ文学の代表的作家であるガルシア=マルケスが脚本家の卵たちと30分のドラマシリーズを作る様子を録音し、その録音を対話形式で記したルポルタージュだ。


 実は、私は会話の前後を記憶する事が苦手だ。少し前のページで彼らが話していたアイデアをすぐに忘れてしまう。その為、話題が変わった箇所を何度も振り返って読み直した。しかし、この錯綜した膨大な量の会話こそが、物語が創造される過程に生じる運動なのだと、読み進めるうちに分かってきた。

 脚本創作ワークショップに持ち込まれるアイデアに対して、マルケスと脚本達の双方が対等に意見を出し合って構成を練り上げていく。アイデアは現れては消え、かと思えば、忘れた頃に以前取り入れられなかったアイデアが浮上してきたり、そもそもの方針を再確認したりと、辛抱強く行きつ戻りつを繰り返す過程が描かれる。

 ともすれば、集団創作は、参加者同士のアイデアの潰し合いや本質的ではない意見の応酬に辟易し、息苦しくなることも多い。だが、本作の脚本創作ワークショップには、そういった風通しの悪さは感じないのだ。「面白い物語にしたい」という目的が全員にとって共通しており、賛成・否定にかかわらず、率直なやりとりが行われているからだ。これは、あるアイデアを否定する時によく分かる。頭ごなしに否定しているわけではなく、根拠がある。そして、自分のアイデアを通す時にも、論理的に意見を示す。この単純でシビアなやりとりを創作でやることは難しい。話す側にも聞く側にも、他者に自分の意思決定を任せる人が、この本にはまだ一人も出てきていない。読み終わる気配はないが、やっと面白くなってきた。

 

明日は、もう少し早く眠りたい。